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オーディオの先達とストリーミングオーディオについて考えます。

このところ何度か当マガジンでも紹介している定額の音楽ストリーミングサービス。9月には満を持して(?)googleも参入(Google Play ミュージック)、LINEミュージックは無料期間の終了と共にユーザーが離れるなど話題は尽きません。当店では音楽を聞く人口の増加→良い音への欲求高まる→オーディオ業界には好影響と考え、ウェルカムで迎えた音楽ストリーミングサービスですが、コアなオーディオファイルにとってどのように捉えられているのでしょう?当店のご意見番、唐木田氏と意見を交わしました。

タマガワオーディオ:月額定額制で聴き放題が魅力の音楽ストリーミングサービスですが、周囲のオーディオファンの中では今のところ大きな話題にはなっていないように思います。やはり、音質的な部分での物足りなさが大きいのでしょうか?

唐木田 巌:非可逆圧縮という音声フォーマットを理由にオーディオファンが盛り上がらないのは否定できませんが、海外ではTIDALやQobuzなどCD以上の音質を持つストリーミングサービスが始まっているので、これらのサービスが日本で開始されればいずれ問題にならなくなるでしょう。私はオーディオファンの動きが鈍いのには別の理由があると考えています。

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現在日本で利用できる音楽ストリーミングサービスは、基本的にスマホやタブレット上のアプリでの再生に限定されます。Apple MusicはPCでも使えますがiTunesに依存します。そういった活用手段の不自由さがオーディオファンに今一つ支持されない原因になっているのではないでしょうか。黎明期にDRM(デジタル著作権管理)の問題で広まらなかったハイレゾ配信の状況と重なって見えます。また、オーディオ業界も音楽ストリーミングサービスをオーディオに取り込むような積極的な訴求を行っていません。そこには業界にとってあまりおいしい素材ではないという考えがあるのかもしれません。

タマガワオーディオ:Appleの場合はiPodが出てきた時も、iTunesでコントロールしなければならない煩わしさを感じましたね。特に、当時の非力なPCでiTunesを動かしてその重さに辟易した覚えがあります。活用手段の不自由さというのは、例えばディスクメディアであればオーディオ・コンポーネントをあれこれ模索し、最適解を得ることができるというようなイメージでしょうか?また「業界にとっておいしくない」というのは、端的に言えばCDプレーヤーやネットワークプレーヤーが売れなくなるという事ですね?

唐木田:オーディオファンとしてはまず、いろいろ試してみたいという欲求はあると思います。DVD-AudioやSACDよりもハイレゾ配信が受け入れられたのは、活用方法の自由度が圧倒的に高かったからだと言われています。PCで再生する場合の再生プレーヤーやUSB-DACの種類の多さと、ネットワークプレーヤーやポータブル機器などによる再生手段の豊富さは、どの方法が音質に優れるかというオーディオ的探究心を刺激しました。

「おいしくない」というのは、プレーヤー関係が売れなくなるということも含みますが、もっと長い目で見て、ハイレゾストリーミングがはじまったとしても再生がスマホやPCなどのアプリケーションに縛られると、システム全体が低価格化していき、高音質という価値観が薄れていくという懸念があると思います。

タマガワオーディオ:時代の中でメディアは進化する訳で、スマホ、タブレット、そしてPCでの音楽再生が標準化するのは、もはや避けられない必然として受け止める必要がありませんか?しかし、その先のD/Aコンバーター、アンプ、スピーカーはこれからも絶対に必要でしょうし、マニアはこの部分にこそ力を入れるのが良いのではないかと。ダウンロード販売だろうと、ストリーミングだろうと、「D/Aコンバーター、アンプ、スピーカー」がしっかりしていればオーディオ的に楽しむことができます。冒頭でご指摘されたように、ストリーミングサービスのハイレゾ化も時間の問題でしょうしね。

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唐木田:残念ながら今のオーディオ業界はやや保守的で、大事に育ててようやく花開いたハイレゾ配信から乗り換えるほどの確信をまだ持てていないように感じます。特に日本では、レーベルやアーティストを含めた反応を見ると音楽ストリーミングに懐疑的のように映ります。

また、オーディオには音の上流のクオリティが重要という定説があり、グレードの高いアンプやスピーカーにはそれに見合った再生機を組み合わせたいと思ってしまうのがファンの心理だと思います。それを覆すほどの魅力を音楽ストリーミングサービスに感じていないのかもしれません。

タマガワオーディオ:専門店の立場からしても、気持ちは大変よく分かります(笑)。しかし明確に主張しておきたいのは、ハイレゾvsストリーミングや、CDvsストリーミングといった対立軸を考えているのではなく、それぞれの良いところ、物足りないところを補完しあって共存するのが正しい利用方法ではないかという事なんです。そういった観点で、ストリーミングは過去にない新しいリスニングスタイルを提示しています。これが最大のポイント。

唐木田:共存というのは賢い活用法だと思います。ただオーディオ業界は、ストリーミングにCDやハイレゾに取って代わるポテンシャルを感じ、脅威として見ている気がします。それに、古いものを否定することで新しいもののメリットをアピールする方法論しか持っていない体質も、共存を提案できない理由かもしれません。

また、聴き放題というお得感とレコメンド機能により、新しい音楽との出会いの機会が広がるというストリーミングの恩恵は、一般の利用者にとっては魅力的かもしれませんが、意外とオーディオファンには響いていないように感じます。それは多くのオーディオファンが、新たな音楽との出会いよりも、より高音質な音源を求める傾向にあるからだと思います。「こんなアーティスト知らなかった」という発見よりも「〇〇の11.2MHzが出た」とか「マスターから直接カッティングした〇〇の復刻版レコードが出た」ということに喜びを感じるような気がします。音楽を広く楽しむよりも深く楽しんでいるといったイメージでしょうか。

そう考えると、既存のオーディオファンにストリーミングを普及させるよりも、ストリーミングを楽しんでいる利用者にオーディオを売り込むべきなのかもしれません。

タマガワオーディオ:AppleMusicでは、例えばロバート・ジョンソンなんかの戦前のブルースのような、Hifiサウンドではないですけど音楽としては聴いておきたい名作がたくさんあります。こういった世界は、個人的には天国のようなんですけどね。自分の場合はハード(機器)よりもソフトにお金を費やしてきた派なのですが、ストリーミングを楽しんでいる層というのは、もしかすると若干ソフト方向に偏りのある嗜好の持ち主なのかもしれません。ハード派には「もっとたくさんの音楽を聴きましょう」と、ソフト派には「もっと良い音で音楽を聴きましょう」と、両面から訴える必要がありあそうです。

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それから、ストリーミングの場合CDやレコードのように物理的な保管スペースは必要ありません。整理整頓が苦手な私にはとても便利に感じます。聞きたいアルバムは検索ですぐに再生できますし、その際にはもちろんディスク・クリーニングのような作業もありません。利便性という意味では過去のメディアとは比較にならないほど向上していると思いますね。歌詞カードやアルバムジャケットのアートワークを手元に置けないのは若干寂しい気持ちもありますけど。

唐木田:そういった訴求は必要で、ストリーミングに求められるのは新規開拓だと思います。今までCDや配信を利用していたリスナーがシフトするだけでは不十分で、あまり音楽触れてこなかった層をどれだけ取り込めるかが重要です。それが消極的なオーディオメーカーや音楽制作者の意識を変えていくことに繋がるのではないでしょうか。

あと利便性は確かに飛躍的に向上しますが、困ったことにオーディオファンは進んで困難な道を選ぶという特性を持っています(笑)。利便性は結果的に体感することで、オーディオファンを振り向かせる決定的な要素にはならない気がします。

タマガワオーディオ:効率重視だけでは語れないのがオーディオではありますが・・・(笑)。話は尽きませんが、最後に、今後のストリーミングオーディオについて可能性と課題などをお聞かせ下さい。

唐木田:オーディオファンに受け入れられる要素を持ったストリーミングサービスとしてTIDALに期待しています。CD相当のロスレスという最低限の音質クオリティーを備え、なにより対応オーディオ機器での再生が可能という拡張性が大きいです。すでにLINNのDSがコントロールアプリ「KAZOO」に連動再生機能を装備し、OPPOのブルーレイプレーヤーも「OPPO MediaControl」経由でTIDALの再生に対応しています。今後ネットワークプレーヤーやAVアンプなど、さらに対応機種は増えていくだろうと予想されます。年内にはハイレゾ版のサービスが始まるようですので、日本でも早く正式に利用できるようになってほしいと思います。

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もっと広い視野で考えると、CDとは違う、ストリーミングならではのヒット曲やスターの誕生に期待しています。莫大な費用をかけてプロモーションを行った曲がヒットするのではなく、本当に良いものが口コミのように広がっていき、大きなムーブメントになるような仕組みを確立してほしい。現在の公式プレイリスト上に上がってくるのはメジャーなアーティストがほとんどで、コアなファンが納得するようなレベルに達していない気がします。もっとユーザー参加型の機能が充実し、ストリーミングサービス側のレコメンド能力も向上すれば、まだ日の目を見ていないミュージシャンにチャンスが広がるかもしれません。

いっぽう、これは音楽ストリーミングが抱える最も大きな課題だと思いますが、現実にはアーティストの収入低下という問題があります。ストリーミングサービスの草分けSpotifyは音楽業界に正しい対価を還元することを理念にスタートし、サービス開始後に海賊版などが減少した成果を報告していますが、やや自己弁護的な印象が残ります。ユーザーやサービス会社だけが得をするようなシステムでは良質な音源が減っていき、いずれ音楽業界が衰退していくでしょう。そうなれば結果的にユーザーは不利益を被ることになります。そうならないためにも、目先の利益追求だけでなくグローバルな視点で進化していければ、音楽ストリーミングがメインのオーディオ音源になる日も遠くないかもしれません。

 

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